九州に台風が接近していて、物々しい感じになっています。富士市も時折雨がサーっと降るようなおかしな天気ですね。台風の進路にあたる地域の方々は十分に警戒してお過ごしください。
さて、今回は久々に書評記事です。昨年、コンサルティング会社のHRインスティテュート社が出版された本について、書評を書かせていただきました(こちらの記事をご参照ください)。
同じHRインスティテュート社が今年の7月に出版された本が、「この1冊ですべてわかる・人材マネジメントの基本(日本実業出版社)」です。現在、同社の代表を務められている三坂健さんが編著として関わっておられます。

この本は、まさに人材マネジメントについて、余すところなく様々な観点からわかりやすく書かれています。さらに、新型コロナウイルス、ダイバーシティ、SDGs、高齢者雇用の法律改正、などの直近のトレンドワードもおさえられています。人材開発の業務に係る方であればお読みいただきたい書籍ですが、現場のマネージャークラスの方々にとっても、また、企業の経営者の方々にとっても、人材をどのように活かすかを考える指針になるといえます。まさに、人材育成を進めるうえでは、傍らに置いて取り組んでもいいでしょう。
本書を拝読して、私なりに感じたポイントを3つに分けてまとめます。
1.新型コロナウイルス感染症の拡大を踏まえて書かれている
7月に出版された新しい本としての特徴といえます。特に新型コロナウイルスの感染拡大によって、人材マネジメントの分野でどのような影響が出るかを随所ににまとめているのがとてもためになります。
たとえば、テレワークへの移行に伴って、人材マネジメントにおいてはどのような点に気をつければいいか?また、研修をおこなう観点で考える場合、どのような研修の形態をコロナ禍では行っていくのがいいのか?また、チームをマネジメントするという観点では、働き方の多様化に拍車がかかり、コロナ禍によって場所を超えたチームマネジメントが求められる、とあります。「常に同じ場所で、顔を見合わせてコミュニケーションする、育成する、といった考えは一旦横に置いて、Face to Faceとリモートを両立するためにはどうすればいいか、ということを真剣に考えてみるタイミング」であると述べています。大きな社会情勢の変化に伴って、人材マネジメントについても、そのやり方や進め方について、変化に対応できるかを問うています。
2.ヒューマンリレーションシップが人材マネジメントの軸になる
これまで人材マネジメントの分野で主に用いられていたキーワードは、「HR(ヒューマンリソース)のマネジメント」でした。経営資源という考え方ですね。ただ、これが、今はヒューマンリレーションシップという考え方が重要である、とこの本では述べています。同じ目標をチームで達成する仲間でありパートナーである社員は、様々な背景をもっています。同じような考え方を必ずしももっている社員ばかりではないということです。そうなると、私がよく必要だと主張する「コミュニケーション」が求められてくることになります。チームメンバーの関係性を重視したかかわりを持ち続けることによって、主体的に働いてもらえる人材を育成するようなマネジメントが必要になってくるということです。そういった意味でも、チームメンバー同士で、お互いに信頼しあうこと、感謝しあうこと、尊重しあうことといった、これまで長年言われてきた、人とのかかわり方において大切な姿勢が改めて求められるということが、この本から学べます。
3.コミュニケーションの必要性
この本は、人材獲得(採用)、人材育成、人材の評価と、組織運営で要求される人材マネジメントの各段階について、その特徴が詳細にまとめられています。いわゆる人材開発サイクルを網羅しているといえます。特に私は、人材育成の部分に注目しました。ここでは人材育成の部分について、さらに大きく2つのトピックスについて言及します。
1つは、ヒューマンリレーションシップを大切にする、あるいは多様な背景をもった人材が組織で存在するという点から、コミュニケーションの必要性について説いています。1on1でのミーティング時のコミュニケーションや、チームでのコミュニケーションについて触れています。1対1の場合には、傾聴や質問、フィードバックを用いてかかわることが重要であるとされていて、こうしたかかわり方のポイントについて丁寧にまとめられています。このあたりは、私にとってはとても学びの深いポイントでした。
もう一つは、コミュニケーションの量の必要性についてです。特に最近は、チーム内でのコミュニケーションの量が減っている組織も多く見られます。そんななかで、私も提唱する「相互共育」のためには、コミュニケーションの量が必要としています。この本で紹介されているHRインスティテュート社が行っている、「インディアン」の事例は、全メンバー同士の双方向によるコメントフィードバックを行うものであり、年齢や立場など関係なく、お互いにフィードバックしあう取り組みがされています。コミュニケーションの量が多くなる一つの形が明示されています。こうした取り組みが、会社の成長を支えているのではないでしょうか。
最後に、本書では、人材マネジメントの不変的な目的として、「いつの時代も一人でも多くの人を幸せにすること」はではないかと述べています。人を幸せにするための手法・考え方である人材マネジメントの実践のためには、「ヒューマンリレーションシップ」を軸にして、周囲の人たちとの関係の質を高めることに着目し、少しでもお互いの関係を良くする行動を生み出すことが求められているとしています。
総じて人材マネジメントのトレンドにあった内容であり、私自身の考え方の根本とも通じるものがあり、とても読みやすく感じました。さらに、新型コロナウイルス感染症の拡大のような直近の課題もおさえながら人材マネジメントについて言及をしているのが、とてもお薦めとなるポイントです。これから、私がいる地域の中小企業においても、働く人が仕事を面白い、やりがいがあるという組織でなければ長く続けていくことができないでしょう。
本書は、お世話になっているビジネス書作家の大杉潤さんを経由して、献本いただいたものです。大杉さん、この度は貴重な書籍を献本くださいまして、誠にありがとうございました。
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